パソコン誌「Windows Server World」のコラム「Windows2000 Cultuer」
連載開始!!

「ホームPC」というパソコン誌の原稿を読んで下さっていた、Windows2000worldの編集長が、 頭を使ってお仕事する読者の皆さんがほっとするページを作りたいとお考えになり、CDを紹介するコラムを執筆して頂けませんかというお話しを戴きました。
書く事が好きな私ですので、しかも自分の好きなCDに関して記述することができるチャンスと、すぐにお引き受けしました。
そしてご好意により、HPでも紹介させていただける事になりました。
独断と偏見で選んでおりますが、Windows Server Worldもためになる本ですので、読んでみてくださいね。
(vol7以前は雑誌名がWindows2000Worldです)

Windows Server World

 
VOL12 SYMPHONIC FILM SPECTACULAR 2
映画好きにはたまらない、臨場感あふれる音の嵐
VOL11 INFINITY
世界でたった1台の楽器が奏でるボーダレスなコラボレーションサウンド
VOL10 ENNIO MORRICONE
映画音楽の巨匠が手がける、不朽のサントラ盤
VOL9 GERSHWIN Fazil Say
定番のGERSWINをユニークな演奏で聴かせる
VOL8 SERENADES TCHAIKOVSKY DVORAK
たまにはロマンチックに、セレナーデはいかが?
VOL7 dulfer dulfer hans dulfer &candy dulfer
じめじめ梅雨をブッ飛ばす ファンキーなサックスが最高!!
VOL6 Ella Fitzgerald and Louis Armstrong
自然に体がリズムを刻む、ジャズの女王&帝王の極上サウンド
VOL 5 クライスラー愛奏曲集 フリッツ・クライスラー  
α派が出るほどリラックスする 究極の癒しサウンド
VOL 4 PAGANINI FOR TWO 〜ヴァイオリンとギターのための作品集〜  
ギル・シャハム イェラン・セルシェル

完璧なテクニックから生み出される さらりとした至福のサウンド
VOL 3 You Must Believe In Spring ビル・エヴァンス
伝説のビル・エヴァンストリオが奏でる 繊細なピアノタッチのけだるいサウンド
VOL 2 ニコライ・カプースチン自作自演集 VOL 1 〜8つの演奏会用エチュード〜
クラシックの枠を越えたJazzyなスピード感
神業テクニックに思わず鳥肌が・・・。
VOL 1 カスタ・ディーヴァ〜デュオ・プリマ〜
クラシックの定番から、なつかしの映画音楽まで
2台のバイオリンが奏でるリラックスサウンド・。
   
VOL1  カスタ・ディーヴァ〜デュオ・プリマ〜
 

Windows2000World読者の旨さま、初めまして。バイオリニストの礒絵里子です。
今月号からいつも頭を使ってお仕事をしている読者の皆様に、リラックスしていただけるような音楽を紹介していくコーナーを担当します。どうぞよろしく。
第1回目は自己紹介も兼ねて、私のいとこ神谷未穂と結成したバイオリンデュオのユニット、「デュオ・プリマ」のデビューCD「カスタ・ディーヴァ」をご紹介。ちなみに「デュオ・プリマ」のプリマにはご存知「プリマ・ドンナ」などの“主役”と、スペイン語で「女性のいとこ」という意味があり、その両方をかけています。
さて「カスタ・デイーヴァ」の中身ですが、これは2台のバイオリンという珍しい編成です。1本でも多彩な表現のできる「完成された楽器」と言われているバイオリンが、2本になることによりさらに幅広い、そして奥深い音楽を奏でられるのです。クラシックの定番から懐かしい映画音楽、気鋭の作曲家千住明氏の書き下ろし新曲まで収録しており、幅広い層の方々に音楽の悦びを存分に味わってもらえる作品です。日ごろコンピュータを駆使して、多忙な生活をしている読者の皆様には、通勤時にぜひ聴いていただきたい!

まず、1曲目に収録されているCDのタイトル曲「カスタ・デイーヴァ」はベッリーニというイタリアの作曲家のオペラ「ノルマ」の中のアリアで、日本語だと「清らかな女神」となります。
オペラというと敬遠される方がいらっしゃるかも知れませんが、そんなことはありません。著名なオペラ歌手マリア・カラスが歌っているのを聴いたことがある方にも涙ものです。
2曲目は映画「昼下がりの情事」より「魅惑のワルツ」が登場。余談ですが、先日NHKの歌謡コンサートの中で映画音楽コーナーとして、この楽曲をオーケストラ伴奏で演奏しました(CDではピアノの石岡久乃さんが伴奏をして下さっています)。「カデンツァ」という「どう私のこの演奏!」みたいに自己主張する部分を加えた特別なバージョンで、なかなか面白かったのでした。

ほかにも映画「タイタニツク」で船が沈むときに弦楽四重奏団が最後まで奏でていた讃美歌「主よみもとに近づかん」や、わたしたちが由紀さおりさんと安田祥子さん姉妹の紅白歌合戦での歌唱に触発されて収録した「トルコ行進曲」など盛りだくさんな内容です。ちなみに私たちが勝手につけたキャッチコピーは「目指せ!!第2の由紀さおり&安田祥子姉妹」なのです。実はべ−トーペンの「大公」と「カカドゥ変奏曲」を収録したわたしのもう1枚のCDもあるのですが、これはまたいつか別の機会にご紹介しましょう。
というわけで、今月はデュオ・フリマの「カスタ・デイーヴァ」を聴こう!!

礒 絵里子

 

VOL2  ニコライ・カプースチン自作自演集 VOL1 〜8つの演奏会用エチュード〜
 

ニコライ・カプースチンと聞いても「だれ?」と首をひねる方がほとんどでしょう。カプースチンはモスクワ音楽院でピアノを学びながらも、在学中からジャズの演奏や作曲の活動をしていたという変り種なのです。
私が初めてカフースチンのCDと出会ったのはブリュッセルに留学していた1999年のことでした。

日本人の友人宅で聴いたのですが1度聴いてすっかりはまってしまい、絶対にこのCDが欲しい!!と意気込んでみたものの、当時のブリュッセルでは見当たらず、帰国するまで待たねばなりませんでした。
日本に−時帰国したときに、いざCDショツフに行ったのですが見当たらず、売り場担当の人に尋ねたところ、すご〜〜く奥の方から持ってきてもらった記憶があります。しかし、次回再び帰国したときには同じCDショツプのど真ん中にカプースチンコーナーができているではありませんか。しかもCDが山積みでピックリ仰天。なんと、クラシック界ではカプースチンの一大ブームが起きていたのです!!(ジャズ界でもなのか?!)。私も人づてとはいえ1歩、いや半歩先取りしたかとちょっと嬉しかったりしたので
した。さっそくベルギーの友人に報告したのは言うまでもありません。

さて、このCDですが自作自演集だけに作曲演奏はカプースチン本人です。
8つの演奏会用エチュード作品集がはじめに収録されており、それぞれに「前奏曲」「夢」「思い出」といったタイトルがつけられています。
まずは1曲目の「前奏曲」。これがすごいんです!!Jazzyでスピード感があり、とにかくすごい技巧!!なんで弾けるの?!ああ、鳥肌が…。CDのいちばん最初にどんな曲を収録するか作り手は熟慮するところなのですが、これが1曲目とは大正解。グっと心をつかまれます。かと思えば、2曲目の「夢」は一転してどちらかというとクラシックっぽく、色彩感のある曲です。
「エチュード」と名づけられているだけに、それぞれの曲が重音、リズム、アルペジオなど重視されているのですが、すべてにおいて彼のテイストがふんだんに盛り込まれている、これまでに存在しなかったタイフの曲集となっています。
エチュードの次には「ソナタ・ファンタジー」と題された18分強のやや長い曲が収録されています。これも聴きごたえは充分。私はこの曲の前半部分を聴くとかなり元気になれます。余談ですが、私はこのCDを車の中で聴くことが多く、“元気が出る”曲のときはついついアクセルを踏む足が…。

この作品にかぎらずカプースチン作品はピアニストから見ても非常に演奏が難しいそうです。とはいえ、最近はロシアのピアニストがアンコールに弾いたり、またプログラムにもカプースチンのソナタを取り上げたりするケースも増えてきているとのこと。
ところでこのカプースチン、1937年生まれなので御年65歳。ブームのころには来日のうわさを聞いたりもしたのですが、1980年代半ばには演奏の一線から退いて、作曲が主だそうです。生演奏を聴くのはもう無理なようで・・・ううむ残念。でもこのCDを残してくれて感謝。 パワーをもらいたいときにおすすめです。

礒 絵里子

VOL3  You Must Believe In Spring ビル・エヴァンス
 

今月はジャズかクラシックのどちらを取り上げようか迷ったのですが、前回に引き続きジャズにします。今まで紹介した中で(と言ってもまだ3回目ですが…。それに1回目は自己紹介を兼ねた「DuoPrima」を取り上げましたね)いちばんメジャーな方のご登場です。その名はビル・エヴァンス。「ああ、知ってる知ってる!よく聴くよ」という方も多いのでは。私はジャズの歴史や背景に詳しい熱心な聴き手ではないのですが、それだけに1度聴いて八マつてしまうと、そればかり聴き続けてしまいます。今回ご紹介する「You Must Believe In Spring」は、私が常に車に積んで愛聴しているCDです。

このCDとの出会いは、ブリュッセル留学中。町中のCDショツプで「何かジャズを聴こう」と、ビル・エヴァンスのコーナーをいろいろ見ているときでした。たまたま隣にいたおじさんから「ビル・エヴァンスのCDを探しているの?だったら絶対に「You Must Believe In Spring」だよ。もうこれ『セ・マニフィーク!セ・トレ・ヴィアン』←『これ、素晴らしい!!すっごくいいよ!!』(超訳:磯絵里子)」とすごい勢いで勧められたことに始まります。

そんなに勧められちゃったら、もう買うしかないでしょう!(←素直)と購入し、早速聴いてみたところ、すっかり気に入ってしまい現在に至る…というわけなのです。

ビル・エヴァンスの経歴をざっとご紹介しますと、1929年に米国ニュージャージー州こ生まれ、1980年にニューヨークで他界したジャズピアニストです。彼は若いころから才能を発揮し、“ジャストランペットの帝王”の異名を持つマイルス・デイビスにも認められ、マイルスのバンドにも初の白人ピアニストとして参加しています。これは当時相当物議を醸したそうです。「白人にジャズができるのか!!」という声もあったのでしょうね。そういえば「アジア人にクラシック音楽ができるのか?!」と言われていた時代もありましたしね…。

話がずれましたが「ビル・エヴァンストリオ」は、スコット・ラファロ(ベース)とポール・モチアン(ドラム)による「PORTRAIT IN JAZZ」なども有名ですが、私は「You Must Believe In Spring」のほうが好きです。このCDは10年以上もいっしょに演奏していたエディ・ゴメス(ベース)と、エリオット・ツィグモンド(ドラム)とビルのトリオで演奏されています。録音されたのは、1977年。ちなみにこれがビルとエディとの最後の作品です。

ビル・エヴァンスは繊細なタッチのピアノが魅力と世間では言われているようです。私も同意見。「You Must Believe In Spring」には7曲収録されているのですが、全編にわたって“もの悲しさ”や“けだるさ”が流れているような気がし
ます。だからこそ、たまにさす“光”がさらに際立ってくるのではないでしょうか。私は悲しいときやショックを受けたとき、両手の親指の付け根や耳のうしろが「ぞわぞわっ」とする感覚があるのですが、このアルバムを聴くとそうなることがあります。この感覚はみんなそうなのかと思って、友達に話したら「え〜、それ変〜」と言われてしまいました。皆さんはどうですか?

「You Must Believe In Spring」を聴くシチュエーションはやはり夜がいいのでは。車に乗っているときだと雨がパラパラ降っているなんてときに聴くとぴったりだと思います。あとはお風呂上がりにお部屋で一杯飲みながら…というのもお勧めです。


礒 絵里子

VOL4  PAGANINI FOR TWO 〜ヴァイオリンとギターのための作品集〜  
        ギル・シャハム イェラン・セルシェル
   今月はパガニーニ(1782〜1840)のヴァイオリンとギターの作品集を紹介します。演奏はギル・シャハム(ヴァイオリン)とイェラン・セルシェル(ギター)。ふたりについては後述するとして、まずはパガニーニを簡単にご紹介しましょう。

 パガニーニは400年を越えるヴァイオリンの演奏家史の中で、さん然と輝く巨匠中の巨匠です。彼は当時では考えられなかった驚異的テクニックをほとんど独学で身に付け、数多くの曲を残しています。ヨーロッパ各地で演奏会を行った彼は、その驚異的テクニックから当時の音楽界にセンセーションを巻き起こします。そして、彼に影響されたシューマン、リスト、ショパン、シューベルトといった多くの作曲家たちが「パガニーニの○○の主題による変奏曲」や「パガニーニの○○の主題による練習曲」「パガニーニの○○の主題によるコンチェルト」といった曲を多く残しています。
 ヴァイオリンを弾いていて、ある程度弾けるようになると必ず通る道がパガニーニの「24のカプリス」です。その名のとおり24の曲集なのですが、各曲にヴァイオリンの超絶技巧が取り上げられているのです。

 例えば第一番はスタッカートでアルペジオ(分散和音)を弾くことを重視した曲です。ほかにも重音がたくさん出てくる曲や、跳躍だらけの曲など”ヴァイオリニスト泣かせ”の技巧がたくさん出てきます。しかし、彼のすごい点は、曲のすべてがとてもすばらしいことです。ただし弾き手が本当に華麗に弾かないと、聴き手が「え?この人何してるの??」と冷や汗をかき、手に汗握るという非常に恐ろしい曲集なのです。

 しかし、今回紹介する「PAGANINI FOR TWO」はそんなイメージとはちょっと違います。彼はギターにもたいへん興味を持っていたそうで、ギターの曲もたくさん残しています。ギターに没頭していた時期があるという話しもありますが、彼の人生はベールに包まれている部分が多く、真相はわかりません。しかし、PAGANINI FOR TWOを聴いていると、彼のほかのヴァイオリン曲とは違う面が見えます。「やさしさ」や「愛情」が感じられるのです。 

 さて、演奏者であるギル・シャハムですが、現在世界の5本の指に入ると言われるほどすばらしい演奏家です。世界中のオーケストラや有名指揮者たちと共演し、精力的に演奏活動を行っています。彼のすごい点は”テクニックが完ぺき”なうえに"音楽性もあり””人もよさそう”(これは演奏とは関係ないか・・・)。コンサートに行っても外れたことはありません。いつも感動させてくれるのです。一方、ギターのイェラン・セルシェルも同じく世界最高のギタリストのひとりとされています。わたしは残念ながらイェラン・セルシェルのコンサートには行ったことはないのですが、PAGANINI FOR TWOを聴いていると、ふたりとも実に自然体で、音楽をほんとうに楽しんで演奏しているようすがはっきりとわかります。技巧的な曲ももちろん難しいのですが、PAGANINI FOR TWOのような、さらっとしたメロディを聴かせるというのもたいへん難しいことなのです。収録曲はヴァイオリンとギターのためのソナタ集、カンタービレなどのオリジナルから、基はヴァイオリンとオーケストラやピアノの曲をギターに編曲した曲が収録されています。全曲お薦めですが、わたしは最初の「ソナタ・コンチェルタータ」と「カンタービレ」が好きです。


礒 絵里子
VOL5  クライスラー愛奏曲集 フリッツ・クライスラー  
        α派が出るほどリラックスする 究極の癒しサウンド
 

 今月も先月に引き続きヴァイオリン曲集を紹介します.ヴァイオリニストで作曲家のフリッツ・クライスラーの愛奏曲集です。

 クライスラーの経歴をざっと紹介しますと、彼は1875年ウィーン生まれ。幼少より父親にヴァイオリンの手ほどきを受け、なんと7歳でウィーン音楽院(それも大学部!)に入学。ヴァイオリンと和声を学んだのち、パリの音楽院でヴァイオリンと作曲を学びます。その後演奏活動を始めますが、音楽活動を離れ,医学や美術を学んだり、兵役についたりします。本格的に活動を再開したのは1919年。1923年に来日しています。

 クライスラーは図書館や修道院の資料室でみずから見つけたというヴィヴァルディや、フランクールなど、昔の作曲家たちの残した作品を編曲して演奏し、人気を得ました。しかし、60歳のときに今までの作品はすべて自分の作品であると公表して、一大スキャンダル(?)となります。ある批評家は「曲はシューベルトのように素晴らしいが、クライスラーの演奏がよろしくない」などと評したようです。それに対しクライスラーは「自分の曲があのすばらしいシューベルトといっしょにされるなんておこがましい。曲がシューベルトならわたしがシューベルトということです」と抗議をしたとか…。盗作がばれてもかまわないという意図も感じられますが、当時その事実に気づいた評論家はいなかったようです。

 さて、彼には「自作自演集」もありますが、紹介したいのは「愛奏曲」、いわゆる小品集です。よく知られている「タイスの瞑想曲」や、「亜麻色の髪の乙女」(島谷ひとみにあらず)などが収録されています。
なぜ「自作自演集」ではなく愛奏集を選んだかというと、彼の「演奏」に集中して楽しんでいただきたいなあと思ったからです。彼の演奏はまず音色が暖かく、丸い感じで、歌いかたやフレージングが絶妙です。彼の演奏を聴くと、リラックスできて、α波が出る感じとでも言ったらおわかりいただけるでしょうか?
 「彼はその演奏で彼そのものを奏でるのだ」といった賞賛の言葉も残されていますが、この愛奏曲集を聴くとほんとうに温かい人だったのだろうなあと思うのです。疲れ気味の方にぜひとも聞いていただきたいCDです。


礒 絵里子

VOL6  Ella Fitzgerald and Louis Armstrong
       自然に体がリズムを刻む、ジャズの女王&帝王の極上サウンド
 

 ここ何回かクラシックの紹介が続いたので、今月はジャズを取り上げます。ジャズのお好きな方なら絶対に知っている『エラ&ルイ』です。
だれそれ?って…うそでしょ?「エラ」はエラ・フィッツジェラルド、「ルイ」は「サッチモ」の愛称でも知られるルイ・アームストロングです。

  ジャズのウンチクを傾けるつもりはないのですが、さらっと2人の略歴を。エラは1917年バージニア州生まれ。16歳でアマチュアコンテストに優勝して翌年デビュー。そのあと1994年に引退するまですばらしい歌声で皆さんに愛されていました。一方、ルイは1901年ニューオリンズ州生まれ。家庭は貧しく、少年時代に矯正施設でトランペットと出会い、そこを出たころには立派なトランペット(コルネット)奏者になっていたといいます。2人ともその実力によって「ジャズ/スキャットの女王」「ジャズ/スキャットの帝王」と呼ばれ…。つまりこのCDはジャズの女王様と王様が共演しているのです。ちなみに録音されたのは1956年。
 
  さて、「Ella and Louis」ですが、一曲目の「CAN'T WE BE FRIENDS?」の前奏から思わず笑みがこぼれてしまうような雰囲気で、2人の声の相性のよさがほんとうに心地よいのです。自然に体がリズムを刻んで、知らぬ間に微笑んでいます。ツボにはまる気持ちよさとはこのことか!と気付かせてくれるサウンドです。
ジャズでもクラシックでもそうですが、1900年代前半の録音は今のポップスの録音のように「あ、ここの音程外したから差し替えね〜」なんてことはやってないですよね。それだけに先人たちのすごさが伝わってくるのです。

 ヴァイオリンにかぎらず自分で音程を作る楽器(チェロ、ギター、管楽器、もちろん歌などですね。ピアノはさにあらず)は自分の耳を頼りにして練習します。大きく跳躍するときは最初のうちはいろいろ“外し”たりするので、何度も何度も練習していかなるときも外さないようにしていくわけですね。このプロセスはスポーツ選手にも通じるところがあるような…

 ほかのテクニックも同様に練習を重ねてコンサートで演奏するのですが、かといって小手先のテクニックだけではお客様は感動してはくれません。自分の“思い”を込めなければ、ロボットが弾いているのと変わりません。だれのことばか定かではありませんが「演奏をするにはテクニックが必要だ、しかし自分を表現するときにはテクニックのことを考えてはいけない」のです。これは音楽にかぎらず色々なジャンルで活躍している人が感じていることだと思います。ええと、何が言いたいかというとですね、エラ&ルイはこの領域にとっくに達していて、自由自在に表現できる人たちなのです。ああうらやましい!
ちなみに2人のコンビで「エラ&ルイアゲイン」と「ポーギーとベス」(ガーシュイン作曲の黒人のオペラ)がリリースされています。


礒 絵里子

VOL7  dulfer dulfer hans dulfer &candy dulfer
       じめじめ梅雨をブッ飛ばす ファンキーなサックスが最高!!
 

 今月はじめじめした梅雨をブッ飛ばせ!!のファンキーなCDをご紹介しましょう。hans dulfer&candy dulfer の「dulfer dulfer」です。有名なのでご存知の方も多いのでは。hans(パパ)とcandy(娘)の親子初共演CDです。2人ともサックス奏者でパパはテナーサックス、娘はアルトサックスを吹いています。
 まずはパパのプロフィールから。hansは1940年オランダ・アムステルダム生まれ。10代半ばでサックスを始めて、17歳ごろからプロとして活動しつつ、さまざまな職業も経験します。1994年(日本では1996年)に「BIG BOY」を発表し、アルバムチャートを賑わせました。日本でも自動車のCMなどに起用されたので、聞けば「あ、この曲!!」となるのでは?
 一方、娘のcandyは1969年、同じくアムステルダム生まれ。7歳からサックスを始め、14歳で自身のバンド「ファンキースタッフ」で活動を開始。プリンスに気に入られて、いっしょに仕事をしたり、マドンナのコンサートの前座をしたり・・。1990年にアルバムデビューし、1994年にリリースした「Sax a go go」もヒット。金髪で青い目の美女。サックスを吹く姿がとてもパワフルでステキなお姉様なのです。
 今回紹介した「dulfer dulfer」は2002年の発売。1曲目「big breakdown」はのっけからパパのテナーサックスがファンキーに突き刺さります。一言で言えば、気分は「このCDを聞きながら海岸線をオープンカーで走りたいぞ!」なのです。伝わったでしょ?
 11曲目と12曲は同じバックミュージックに合わせてそれぞれが演奏している曲が収録されているので、聞き比べるのもかなり楽しいです。
 私はいとこと「デュオプリマ」というヴァイオリンのデュオでも活動しているのですが、同じ楽器のデュオって結構珍しいんですよね。そして少ない中でも血縁関係で組んでいるデュオがなぜか多いのです(親子、姉妹兄弟、いとこなど)。ダルファー親子の場合はアルトサックスとテナーサックスなので厳密には同じ楽器ではなく、毎回いっしょに演奏しているわけではないのですが、やはり「親子だからこそできる音楽」なのかなぁと感じました。遠慮のいらない間柄で構成する音楽・・・というか。
 しかしこんなファンキーなお父さん・・・・。うらやましい。私の友人がライブを見に行ってひどく興奮していました。次回は私もいきたいです。

礒 絵里子

VOL8 SERENADES TCHAIKOVSKY DVORAK
       たまにはロマンチックに、セレナーデはいかが?
 

 今月は久しぶりにクラシックの登場。中でも今までご紹介していない「弦楽合奏」です。弦楽合奏とはその名のとおりヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの弦楽器群のみのオーケストラです。今回は特に有名なチャイコフスキーとドヴォルザークの「弦楽セレナーデ」を取り上げたいと思います。

 この2曲は数ある弦楽セレナーデの中でも特に有名な“2大巨頭”です。さまざまな団体が同じカップリングでCDをリリースしていますが、その中でも私の好きなフランツ・リスト室内オーケストラの演奏を推薦したいと思います。このオーケストラはハンガリー生まれのピアニスト&作曲家、フランツ・リストの名を冠した団体で、ブダペストを本拠地に活動しています。日本での演奏会もありましたから、もしかしたらご存知の方もいらっしゃるかも知れませんね。

 さてセレナーデは18世紀の後半にウィーンをはじめ、ヨーロッパで流行したパーティのための音楽です。当時は貴族の館などで演奏されていましたが、19世紀に入ってからは市民階級に文化が移り、新しい客層に受け入れられるべく、ロマンチックに“新装”したセレナーデが多くの作曲家によって生み出されました。

 ではトラック順にチャイコフスキーから紹介しましょう。彼は言わずと知れたロシアの作曲家で、有名な作品はやはり「白鳥の湖」でしょうか。この弦楽セレナーデは彼が40歳のときの作品で、友人に当てた手紙に「初演の日が待ちきれないほど愛している」と書き記すほどの自信作だったようです。この曲は弦楽器奏者を生業としている者は必ず通る道(曲?)で、わたしも中学校のときに当時習っていたヴァイオリンの夏合宿で初めて演奏しました。「なんてよい曲なんだろう〜」と思う反面、なかなか難しく、ヒイヒイ言いながら練習した記憶があります。
今では楽々弾けるのですから、とりあえず多少の進歩はしているようで…。

 ところでこの曲の第1楽章、某人材派遣のCMに使われてと〜っても有名になってしまったのですが、友人の某管楽器奏者が「この曲って人材派遣のテーマ曲かと思っていたらチャイコフスキーだったのね〜 」と発言して、物議を醸しました…。「弦楽器界では有名なこの曲もほかの楽器の人は知らないのかなあ…」と思っていたところ、彼女が例外だったようで、音楽家の中では(ほとんど)知らない人はいない曲です。その有名な一楽章はもちろんですが、どの楽章もすばらしいです。

 もう1人のドヴォルザークはチェコを代表する作曲家で、チャイコフスキーとは1歳違いとか。彼は民族色あふれるセレナーデを2曲残していて、1つは上記の弦楽セレナーデ、そしてもうひとつは管楽器中心の作品です。この弦楽セレナーデは彼が34歳、ようやく作曲者としての名声を得はじめたころの作品で、5つの楽章からなっています。この作品もわたしが学生時代に指揮者なしで同年代の友人たちと弦楽アンサンブルの演奏会で弾いた思い出の曲です。弦楽アンサンブルは指揮者がいる場合はもちろんですが、小編成だと指揮者なしで演奏できるので、弾く側としてはタイヘンながらも楽しいのです。

礒 絵里子

VOL9 SGERSHWIN Fazil Say
       定番のGERSWINをユニークな演奏で聴かせる
 

 今月はアツい夏をクールダウンさせてくれるGERSHWINのCDを紹介しましょう。GERSHWINの音楽はちまたにあふれているので、絶対にどこかで聴いたことがあると思います。例えば「Summer Time」はどうでしょう。ご存知ですよね。ほかにも「It Ain't Necessarily So」や「Rhapsody in Blue」「I got Rhythm」などなど「あぁ、あの曲!」となる曲ばかりです。

 GERSHWINは1898年ニューヨーク市生まれ。6歳ごろから音楽に興味を持つのですが、家にピアノがなく人の家のピアノで練習していたそうです。そして、15歳で譜面屋でピアノを弾く「ソングブラッカー」という仕事をはじめます。ソングブラッカーとはお客さんから「この譜面の曲はどんな曲?」と聞かれたときに、ピアノで実際に弾く職業のこと(古きよき時代の職業という感じがしませんか)。GERSHWINのピアノのうまさは瞬く間に評判となり、音楽界に進出します。GERSHWINの名前が一躍有名になったのは1919年「SWANEE」の大ヒットでしょう。以降オペラ、クラシック、映画音楽、ポピュラー音楽と幅広いジャンルで活躍しました。
 GERSHWINにかぎらずクラシックでも後世まで名前が残る作曲家の作品は「あ、これはあの人の曲だ」と特色がありますね。しかし、同じ時代には今ではあまり演奏されない作曲家も山ほどいたのです。そう考えると今でも頻繁に演奏される曲は何百年にわたるロングヒットなんですよね。いや〜すごい。ポップスだったら何が残るのでしょう。
BEATLESは残るでしょうねえ。個人的にはQUEENの「Bohemian Rapsody」も残ってほしですねぇ・・・。

 さて、Fazil Sayの「GERSHWIN」には前述の定番曲が中心に収録されています。ピアノ1台で演奏されている曲からベースやドラム、管楽器が入るJazzyな曲、ニューヨークフィルハーモニックのオーケストラとも共演している曲も収録されている豪華版です。

 Sayは1970年トルコ生まれ。17歳のときにデュッセルドルフのシューマン音楽院に留学し、そのあとベルリンのカラヤンアカデミーで教鞭をとります。1995年にヤングコンサートアーティストオーディションで1位になったことがきっかけで注目され、以降精力的に活躍しています。SayのCDで特徴的なのは、とても'ユニーク’なこと。例えばストラヴィンスキーの「春の祭典」というオーケストラの曲を1人で二重録音したり、Sayがトルコ人だからでしょうか、モーツァルトの「トルコ行進曲」を収録したり・・・。
GERSHWINのウキウキするメロディとSayの楽しい演奏。ぜひ聴いてみてください。

礒 絵里子

VOL10 SENNIO MORRICONE
        映画音楽の巨匠が手がける、不朽のサントラ盤
 

 今回は映画「ニューシネマパラダイス」のサントラ盤を紹介しましょう。音楽を担当しているENNIO MORRICONEは、言わずと知れた映画音楽の巨匠。「夕陽のガンマン」、「ミッション」、「海の上のピアニスト」など多くの映画音楽を手がけています。ちなみに、NHKの大河ドラマ「武蔵」のオープニング曲もMORRICONEの作品だとか。

  実は、ニューシネマパラダイスはわたしのいちばん好きな映画なんです。舞台となるシチリア島の風景の美しさ。映画館と、そこに集う人々とのつながり。主人公トト君のかわいらしさ…。どこを切り取っても愛すべきシーンばかりです。シチリア島が舞台に選ばれたのは、Giuseppe Tornatore監督の故郷ということも多分に関係しているでしょう。監督の故郷への思いがはちきれんばかりに詰まっているのを感じます。

 ストーリーは有名な映画監督となったサルヴァトーレが、幼少のころともに過ごした映画技師の訃報を聞き、少年時代を回想するところから始まります。わたしはオリジナル版を見て、泣きに泣きました。さらにそのあと、オリジナル版にエピソードが追加されたディレクターズカット版も発表されました。もちろん、こちらでも号泣してしまったのですが、ストーリーが根本から覆されているようで「オリジナル版で泣いた私の立場は…」と思わなくもないのでした。

  さて音楽ですが、これがストーリーにぴったり!! というより、映画のすばらしさをさらにパワーアップさせているのです。1曲目の「ニューシネマパラダイス」が流れてくると、さーっと映画の情景が浮かんできます。4曲目の「過去と現在」のヴァイオリンや、7曲目の「廃墟の中で」の弦楽四重奏の音色もたまりません。同じメロディでもそのシーンによって伴奏を変化させたり、演奏楽器によって悲しく聞こえたり、激しく聞こえたりするところも注目です。

  ニューシネマパラダイスはビデオもDVDも発売されています。今度の休日には映画を見て、さらにサントラ盤を聴いて、そのすばらしさをたん能してください。


礒 絵里子

VOL11 INFINITY
        世界でたった1台の楽器が奏でるボーダレスなコラボレーションサウンド
 

 今回はちょっと毛色の違うジャンルのCDを紹介しましょう。マリンビストSINSKEの「INFINITY」です。“マリンビスト”とはマリンバの演奏者のことですが、マリンバ自体あまりなじみのない楽器かも知れませんね。大きな木琴を想像するといちばんわかりやすいでしょう(マリンバ奏者に怒られそうですが…)。クラシック界ではマリンビストはオーケストラで演奏する名曲を華麗にアレンジして弾いたり、現代音楽でも活躍したりしているというイメージがあります。しかし、今回紹介するSINSKEはそのどちらでもない、まったく新しいフィールドへ踏み出しています。

わたしはSINSKEが「INFINITY」を製作している時期に話をする機会があったのですが、そのときに「MIDIマリンバを作ってもらっているんだ」と聞いて、びっくりした覚えがあります。
「MIDIマリンバ」とはマリンバ版のシンセサイザーで、世界にたった1台だけのSINSKEのオリジナル楽器です。デビュー前のシークレットライブで初めて見たのですが、モダンテーブルのような格好よいスタイルでした。マレット(木琴をたたく棒です)でたたくと、ありとあらゆる音が出せるようになっており、これなら色々な音楽が作れるんだろうなあと感心したことを覚えています。

さて、そんなMIDIマリンバの演奏が堪能できる「INFINITY」は実にバラエティに富んだCDです。SINSKEが作詞作曲を手がけた「Infinite Spacy」は、音の層が厚く、ソウルフルな女性ヴォーカルが印象的。そうかと思えばクラシックの定番である「Beee!(熊ん蜂の飛行)」を鮮やかに演奏しています。さながら“クラシック界からの挨拶状”といったところでしょうか。そのほかの曲は、何人ものサウンドクリエーターとのセッションを通して作り上げられています。SINSKE曰く「クラシックとはまったく違った音楽の作り方がたいへんだったけど、おもしろかった!」とのことでした。

SINSKEはわたしのように電子メールしか利用しないコンピュータ音痴とは違い、ベルギー留学中(実はわたしと同じ時期にベルギーに留学していたのです)も電子メールで音源サンプルを日本のクリエーターとやり取りしていたようです。コンピュータを活用できるってうらやましいとつくづく思いました。音楽のジャンルはボーダーレスと言われますが、演奏するほうも境界がなくなっていることを「INFINITY」で実感できます。ぜひ聴いてください。

礒 絵里子

VOL12 SYMPHONIC FILM SPECTACULAR 2
        映画好きにはたまらない、臨場感あふれる音の嵐
 

今月は映画音楽を集めた「SYMPHONIC FILM SPECTACULAR 2 」を紹介しましょう。
演奏は沼尻竜典氏指揮、日本フィルハーモニー交響楽団です。このシリーズは3 枚リリースされているのですが、特に「感動とサスペンス篇」はオススメです。なぜかと言いますと、全15 曲中1 曲だけ、わたくしソロを弾かせて頂いております。…ええ、…ええ、よろしかったら聴いてください。ちなみに曲は「栄光への脱出」です。

このCD はタイトルのとおり、多くの人に感動を与えた「マイフェアレディ」や「風と共に去りぬ」、「スター・ウォーズ」などの映画音楽が収録されています。どれも映画のタイトル名を聞けば曲が浮かび、また曲を聴けばその映画の場面がぱっと目の前に再現されるような曲ばかりです。そのうえ、スコア(譜面のことです)はハリウッドからオリジナルを取り寄せているのです。「それがスゴいことなの?」とおっしゃるあなた、すごいことなんですよ。映画音楽を演奏する場合、普段はアレンジャーがアレンジしたスコアを使うことが多いのですが、アレンジされたスコアで演奏すると、映画で使われた曲とは多少“音”が変わってしまうのです。しかし、SYMPHONIC FILM SPECTACULARでは、全シリーズが映画で使われていたスコアで演奏されているのです。

さて、1 曲目は「荒野の7 人」。実はわたし、この映画は見たことがないのですが、曲は大好きで聴くと気分が高揚してきます。ほかにも「風と共に去りぬ」の「タラのテーマ」を聴くと、食いしん坊のわたしは、主人公のスカーレット・オハラが戦争で荒れ果てた故郷に帰り、「I'venever been hungry again !!」と畑の土を握りつぶすシーンが浮かんでくるのでした。それから「サイコ」。この曲は「栄光への脱出」の収録の直後に録っていたので、録音スタジオの裏で聞いていたのですが、う〜ん、やはり怖かった!!そのときの臨場感がそのまま録音されています。夜中に1 人で聴くのは避けましょう。

この感動とサスペンス篇には“パニック映画組曲”が収録されています。これはスター・ウォーズや「スーパーマン」などでおなじみのジョン・ウィリアムズが手がけた「大地震」「タワーリング・インフェルノ」「ジョーズ」をメドレーにしたものです。なかなかスゴいこと考えるなあと感心しまいました。とにかく、映画好きにはたまらないこの1 枚、お薦めです。
さて、Windows Culture Club は今月が最終回です。1 年間読んでくださってありがとうございました。またどこかでわたしの文章が皆さんの目に止まる日を願いつつ…。演奏もがんばります。コンサートにもぜひ、お出かけくださいね。

礒 絵里子